治療 / 薬による治療
薬によるがんの治療には、いわゆる抗がん剤やホルモン剤などが用いられます。ここではそれらの薬剤を使用した方々の語りを紹介します。
□抗がん剤
抗がん剤は、がん細胞を死滅させる働きをしますが、同時に正常な細胞も傷害するために、副作用が強く現れます。抗がん剤の主な副作用として、吐き気、嘔吐があります。症状の程度は様々ですが、制吐剤(吐き気止め)によって一時症状が軽減したタイミングを見計らって、食事をしっかりとるという対処を行っていました。
・吐き気が軽減したタイミングで食事を取った。(50歳代前半・女性)
また、免疫力の低下によって、激しい口内炎を起こしていた人もいました。口内炎のために全く食べられないため、かかりつけ医に点滴をしてもらうことで何とかしのぎ、遠方にいる家族の協力も得ながら治療を乗り切っていました。
・口内炎が続く中で抗がん剤をするのが一番苦しかった。遠方に住む嫁に助けてもらった。(60歳代後半・女性)
抗がん剤による脱毛には違いがあり、それほど抜けずにすんでいた人もいました。逆にバサバサと髪が抜け落ちたことへの驚きや不安に関する語りもありました。中には、その恐怖から、抗がん剤を中止し、手術してもらうことを医師に強く希望した人もいました。
・髪の毛は、治療の後半にぱらぱら落ちてくる程度でした。(50歳代前半・女性)
インタビュー協力者の中には、二度の乳がんを経験した後、子宮がんになり、手術療法と抗がん剤治療を受けた人もいました。新たに違う部位のがんにかかったこと、抗がん剤の吐き気が激しく飲むこともできない辛い状態が続いたことで、抗がん剤治療がかえって自分の身体を弱めてしまうのではないかという疑問を感じました。医師とも相談の上、抗がん剤の治療を中止し、自分で自分の身体と相談しながら精神的にも安定した日々を送っているという語りもありました。
・医師に抗がん剤の中止を相談した数日後、「やっぱりどうしてもやめます」と伝えたら「そうですか」といって、抗がん剤の治療をやめることになりました。今は精神的に安定した状態でいます。(40歳代後半・女性)
□ホルモン療法
乳がんの増殖には、女性ホルモンであるエストロゲンを必要とするものがあります。エストロゲンを必要とするタイプの乳がんの場合、その作用を抑えるホルモン剤を使用することで、転移や再発を少なくさせたり、進行をおさえることができます※2。
ホルモン療法を受けたインタビュー協力者たちは、治療への抵抗感や副作用による大きな生活への影響もなくすごすことができていました。
・先生に言われるように5年間のホルモン剤を飲み、副作用もなかった。(40歳代後半・女性)
治療を終了することへの不安から、徐々に投与量を減量することを医師と相談しながら行っていました。
・医師からホルモン剤の減量を勧められたが、心配だったので少しずつ減らしてもらった。(40歳代後半・女性)
また、ホルモン剤治療が必要な期間をはっきりと提示されたことによって、安心して治療に臨むことができているという語りもありました。
□ハーセプチン
ハーセプチンとは、HER2たんぱくというがん細胞を増殖させる働きのある物質を破壊することで、がんの増殖を抑える働きをする薬剤です。分子標的薬といわれる治療薬のひとつです。ハーセプチンによる治療を受けたインタビュー協力者は、抗がん剤治療を受けていた同じ病気の人々の姿から、苦しい治療になると想像していたようでしたが、特に大きな副作用もなく治療を終了できたことを喜んでいました。
※2 日本乳癌学会(2006).乳がん診療ガイドラインの解説 2006年版 乳がんいついて知りたい人のために,p.84,金原出版,東京.