病気との向き合い方 / がんと向き合う姿勢
最近では、がんは糖尿病などと同様、慢性病のようなものだといわれることもあります。治療ができるケースが多くなった反面、がんと長期間の付き合いを余儀なくされる人も増えてきました。今回、インタビューに応じてくださった方々も、再発や転移の有無に関わらず、治療が終わってからも何らかの形で、がんを意識しながら日々の生活を送っておられました。インタビューの中では、がんという病気と向き合いながら、どのような姿勢で日々を送ろうとしているか、どのように気持ちを保っていくか、それぞれの工夫をお聞きすることができました。このトピックでは、がんを経験された後の、<がんと向き合う姿勢>について語られた部分に着目して、経験談をご紹介いたします。
がんと付き合う
がんを一度でも経験された方は、たとえ再発・転移していない方であっても、がんにまつわる思いが頭を離れず、どこかで常にがんという病気を意識してしまうようです。インタビューに応じた方々は、この病気を、なんとか付き合っていくしかないものと捉えて、それぞれに気持ちの持ち方を工夫されていました。たとえば、ある方は、がんを征圧しようと考えるより、「がんとどういうふうに付き合っていくか。」を考えるのだと話されました。
がんと付き合うにあたり、がんとはどのような病気なのか、といったことも語られました。たとえば、がんとは、「だれでもかかる」病気で、「仕方ない」ものと考えて、がんと付き合うというお話がありました。他にも、「運命かなという受け取り方」や「共存していかなければならない病気」という捉え方など、それぞれの病気の受け止め方が語られました。
さらに、がんと付き合う上での工夫についても、お話をお聞きできました。たとえば、「真剣に悩まない」ようする、「何でもいいほうに考え」る、できるだけ忘れるようにする、といったように、それぞれに工夫して様々なことを心がけておられました。
・先の心配はあるけれど、区切りを迎えたら、がんとは「さよなら」だと思うようにしている。(60歳代前半・男性)
・がん細胞は自分と共存していると考えて、ともに生きる。(60歳代後半・女性)
得られたものに注目する
病気を経験する過程では、さまざまな苦しみにであい、いろいろなものを失うこともあります。しかし、インタビューの中では、病気の経験を経て手に入れたものにも注目したお話をうかがうことができました。病気の経験自体は決してよいものとは言えませんが、そこから何かしら得るものがあったという考え方をもつことはできるようです。たとえば、「病気が自分を進化させるね。間違いないと思う。」というふうに、病気の経験を通して自分が成長することができたと前向きに捉えて語ってくださる方もおられました。
・病気を経験して、周囲も自分も互いに優しくなった。動じなくなったし、時間を大切にするようにもなった。(50歳代後半・男性)
・「がん友」という、わかってくれる仲間に巡り会うことができた。「がん友」と出会うために病気になったのかなと思ったりもする。(50歳代前半・女性)
・これまでは時間に追われていたが、病気をして自分を見つめる時間ができた。(60歳代前半・男性)
幸運に注目する
意外に感じるかもしれませんが、インタビューでは、「運がよかった」とか「ラッキーだった」という言葉を使う方が複数いました。病気になったこと自体は不運と捉えていても、発見が早くて運がよかった、辛い抗がん剤治療がなくてラッキーだった、がんになるのが今の年齢でよかったなど、不運の中に見つけた幸運に注目する捉え方をされる方がおられました。また、誰でもいずれは死ぬのであれば、がんで死ぬのは比較的幸運な死に方だという考え方も、2人の方から語られました。
すべての方が、がんの経験の中から幸運だったことに注目するお話をしてくださったわけではありませんでした。むしろ、「運がよかった」という捉え方をする方は、少数派でした。そして、病気に関して「運がよかった」と語る人は、病気のこと以外にも様々な出来事について、幸運に注目して語る傾向がみられました。一部の人にとっては、辛い病気の経験の中に幸運を見つけようとすることが、病気と向き合う上で役に立つ場合があるということかもしれません。
・術後の経過もよかったし、抗がん剤の副作用も軽くて、幸いだった。(60歳代後半・女性)
・担当の医師に恵まれ、すぐに手術を受けられたし、その後の対応もよかった。(60歳代後半・男性)
・がんになるのが、5年、10年後ではなく、今でちょうどいい時期だったと思う。(60歳代後半・女性)
・がんで死ぬのも決して悪くはないし、長生きすればよいわけでもないと思っている。(60歳代後半・女性)
・副作用や痛みに苦しむことも少なかったし、突然の事故と違って考える時間が持てたので、ラッキーなのかなと思う。(50歳代前半・女性)
主体的に日々を生きる
インタビューの中では、病気をして、自分のしたいことをして生きていこうと思うようになったというお話が複数の方から聞かれました。それまでは、仕事や対人関係の中で、心身ともに我慢したり無理をしたりすることが多かったけれど、病気をしてからは、無理なことは断ろうと考えるようになるようです。また、残された時間の短さを感じている方の場合、これが最後かもしれないという思いから、周囲に遠慮するよりも自分のしたいことを優先したというお話をお聞きしました。
・できないことはできないと、はっきり線引きをして、無理をしないようになった。(50歳代前半・男性)
・新しいことにチャレンジしたり、仕事を引き受けたりする一方で、あまりに大変な場合には断ることも考える。(50歳代前半・女性)
・見納めかもしれないと思い、周りの反応を気にせず、多少は無理をしてでも姪の結婚式に出席した。(60歳代前半・女性)