発見 / 発見までの道のり
ここでは、何らかの自覚症状に気付いた後、受診するまでと、最終的に大腸がんと診断されるまでの経緯をご紹介します。
大腸がんは、一般の健康診断や人間ドック、大腸がん検診などで、便潜血反応が陽性(便の中に血液が混じっている)という結果が出たり、または、何らかの症状に気付いてから受診し、精密検査などを経て診断されることがほとんどです。今回のインタビューでは11名中9名の方が、がんの発見にいたる前に、何らかの症状を自覚されていました。
がんの進行度を表す言葉にステージ(病期)と呼ばれるものがあります。最も早期の0期から最も進んだ状態のⅣ期まで、進行の度合いに合わせて分類されていますが※1、診断された時点で、Ⅲ期またはⅣ期と伝えられていた方もいました。大腸がんのステージに関する説明は、『がんを学ぶ-大腸がん』に詳しく掲載されていますのでご覧下さい。
また、「病院に行くのが遅すぎた」「わかった段階で手遅れだった」「もっと早くわかっていれば」と受診するタイミングの遅れや早期に発見できなかったといった“発見の遅れ”を感じていることが、複数の語りからうかがわれました。インタビューでは、がんの発見にいたるまでの経緯の中で、発見の遅れを感じさせるようなさまざまな事情が語られており、ご本人の事情と医療側の事情の2つの側面が浮き彫りになりました。
本人の事情
ご本人の事情により発見が遅れてしまったと感じられるケースでは、医療機関を受診したり、精密検査を受けるまでに時間を要していたことが挙げられます。その理由として、健診を受けていなかったことや、症状を自覚していながらも直ぐには受診できなかった何らかの事情が語られていました。
兆候に気付いていたにもかかわらず、受診のタイミングを逃していた方がいました。自分が日常的に経験していた症状が、がんの兆候と結び付かなかったことや、数年間に渡って異常な数値を示していた定期健診の結果を生かすことができなかったという事情が、受診の遅れを招いていました。
・痛みもなく、銭湯で倒れたのを、ただの貧血かなと思って、1年間ほったらかしていた。(60歳代前半・女性)
・数年間、定期健診で指摘されていた便潜血反応がプラスという表示は気になっていたが、大したことはないと思って、精密検査は受けていなかった。(50歳代後半・男性)
仕事を優先するがために受診が遅れ、その結果が発見の遅れにつながってしまった方もいました。仕事が忙しくて、健診を受ける時間を作ることができなかったり、たとえ症状があっても、そして、その症状が少しずつ進んでいるだろうと感じていても、仕事のけじめがつくまで受診せずに働き続けていた方もいました。
・血便が出て、トイレに行く回数が増え、がんかもしれないと思いながらも仕事を優先していた。(60歳代前半・男性)
・約半年前から異常に気づき、更に痛みが出現しても、仕事のけじめがつくまで働き続けているうちに、腹膜炎を起こす寸前までいってしまった。(50歳代前半・男性)
医療側の事情
がんという診断にたどりつくまでに時間がかかってしまい、発見の遅れを感じているケースは、何もご本人の事情だけに限ったことではないことが、今回のインタビューからうかがわれました。毎年、検診を受けていたにもかかわらず、がんができた場所が検診の範囲外であったために、なかなか見つからなかったり、自覚症状が現れてから医療機関を受診したにもかかわらず、生じていた症状に対して、他の疾患名がついてしまったりといった医療側の事情も語られていました。
・一般の検診ではやらない小腸と大腸の間にがんが出来てしまったために、発見が遅れた。(60歳代後半・男性)
今回のインタビューでは、1名の方が虫垂がんの診断を受けていました。虫垂は、大腸の一部である盲腸から垂(た)れ下がっている部分にあります。虫垂がんは、比較的まれな疾患であるため、他の大腸がんに比べて、治療の数や病気に関する情報が少なく、また、部位の関係から発見が難しいと言われています※2。この方も症状や異常な数値を示す腫瘍マーカーの検査結果が出ているにもかかわらず、発見にいたるまでに時間を要していました。原発性虫垂がんは、多くの場合、手術の前に確定診断を得ることは極めて難しいと言われています※3。学会誌などでは、急性虫垂炎との診断で手術が行われ、開腹した時点や術後の病理検査で、がんと診断されることも多いとの報告もあります※4。従って、お腹を開けてみるまではわからないというケースは、決してこの方に限ったことではないようです。
・あちこちの科を周ったが「検査の結果は異常なし」と言われ、それでも腫瘍マーカーの値が上がり続け、盲腸らしいと思って切ってみたら、虫垂がんだった(60歳代後半・女性)
本人と医療側の事情
ご本人と医療側との両方の事情で、発見までに時間がかかってしまったケースもありました。最終的に大腸がんが発見されるまでには、2つ以上の事情が重なっていたことが語られていました。
健康診断では、便の検査だけを受けておられなかったというご本人の事情に加えて、具合が悪くなり、医療機関を受診したにもかかわらず、症状の原因となっていた大腸がんが見つかるまでに時間を要していた方がいました。
・数年前から体調がすぐれず、いろいろな病院を受診したが、別の診断名がつき、なかなか大腸がんの診断までたどりつかなかった。(50歳代前半・女性)
自分の健康を過信しすぎて、ほとんど健診は受けていなかったという方がいました。実際におう吐の症状が出て受診した時には、腸ではなく胃の検査を受け、異常が認められなかったことから、なかなか大腸がんにたどりつかなかったと語られていました。
・おう吐が続く中、なかなか原因がわからず、いろいろな検査を受けた。紹介された大病院での検査中、モニターを見たら腸がふさがるほど大きくなっていた(60歳代後半女性)
【参考資料】
※1 大腸癌研究会(編):大腸癌治療ガイドラインの解説(2009年版)
※2 大津智,白尾国昭:稀少がんの臨床 (7)虫垂がん.腫瘍内科 2010;6(6)
※3 鈴木公孝:虫垂癌.武藤徹一郎(編):大腸・肛門外科,11章,2006
※4 稲荷均,熊本吉一ほか:術前に診断しえた虫垂癌の1例.臨床外科 2005;60(4)