関係 / 医療者との関係
患者が納得いく医療を受けるためには、医療者とどのような関わりを持つかが大きく影響してきます。ここでは、体験者が、医師、看護師、そして病院や医療についてどのような思いを持っているか、どのような経験をしてきたかを紹介しています。
医師との関係
医師を信頼し感謝を感じている人もいましたし、不信感、不満を持っている人もいました。また、医師と良好なコミュニケーションを持つために自分なりにしている工夫についての語りや、こうして欲しいといった要望の語りもありました。
何人かの人たちは医師への信頼を語り、「大丈夫だよ」の一言に安心すると言っています。医師が自分にしっかり向き合ってくれたことで信頼が生まれたという人、医師と少しでも話すことで安心感が生まれるという人がいました。診察の時医師の顔を見るとニコッとしたくなると語った人もいます。また、最後までその医師に命を預けたいと思った、主治医を信頼することが患者のプラスになる、とにかく信じることにしている、という人もいました。
・主治医は、しっかりと私の眼を見て、誠実にかつ分かり易く話をされる方で、主治医に対する信頼感を持つ事ができたのは本当に幸いでした(音声なし)
入院の日の朝、タクシーを呼んで立会人である姉と荷物と共に病院へ。前回のCT撮影からlヶ月以上経っているので再度CTを撮り、進行の具合などを調べ、午後14時半頃から手術の説明が一時間ほどされました。主治医は初めて会う医師でしたが、外来の担当医と研修医、看護師も同席。(後から分かつたことですが、産婦人科医師3名程度で2チームになって、患者や研修医を担当しているのでした。)
主治医は、しっかりと私の眼を見て、誠実にかつ分かり易く話をされる方で、私が感じている憤りにも理解を示す方でした。もし、初診の際の医師が担当であれば、私は手術や治療を受け入れられなかったかもしれません。(初診時の医師の顔を私は覚えていません。患者の私の顔をきちんと見ながら話をした記憶がないからです。当然自己紹介もないので名前も覚えていません。後で外来担当医の表で判断しましたが)自身の病気をまだ完全には受け入れられない状態ではありましたが、主治医に対する信頼感を持つ事ができたのは本当に幸いでした。
・「大丈夫だよ」と言ってもらえる、先生の顔を見て帰ってくるだけで良かったと思って、通い続けました(40歳代後半・女性)
・先生とちょっと話をしてくれば安心感があるんです(30歳代後半・女性)
・私はその先生に命を預けたんだから最後まで預けたいなと思いましたね(60歳代前半・女性)
・先生を信頼するということは、患者のためにすごくプラスになります。決めたらそこを絶対信頼しないと(40歳代後半・女性)
・先生を信じるしかないなと思って治療してきました(50歳代前半・女性)
一方で、医師に対して不信感、不満を持っている人たちもいました。婦人科のがん検診を受けていたのに、子宮頸がんのみの検査で体がんが見逃され、がん発見時に医師に不信感を持った人もいましたし、検査のデータを医師が詳しく示して説明してくれない、患者の顔を見てくれない、という不満を語る人もいました。さらには、病院の医師が次々に変わってしまう、転移・再発した場合にも診療科が少ないので病院を選べないという、地域医療の抱える問題に言及する語りもありました。また医師から冷たい言葉を投げつけられた経験したという人もいます。頸がんのみの検診で体がん検査をしなかった医師を訴えることを考え、最終的に示談にしたという人もいました。
・どうして私が出血したと言ったときに、体がんの検診も先生がしてくれなかったのだろうと思って(50歳代後半・女性)
・(医師に対して)「今までがんを見つけられなかった責任はどうなのよ!」と心の中で叫んでいました。(手記より)
(仕事などの都合で)手術を12月から1月に延期したことで、医師には「その間に病状が進んでも責任持てません」と言わわれましたが、「今まで見つけられなかった責任はどうなのよ!」と心の中で叫んでいました。
11月28日に再来があり、医師からは手術とその後の治療予定などが説明され、入院に関する説明は看護師からとのことでした。医師に「何か準備するものありますか?」と尋ねたところ、「特にないですよ」とのことでした。私は再度カチンときました。
・先生に「データをコピーしてください」って言ったら「そんなのわからないでしょう」って言われたの(50歳代後半・女性)
・医師が患者と向き合ってくれず、悩みも聞いてくれない(60歳代前半・女性)
・先生から「まだ来てるのか」と言われショックでした(音声なし)
一番最初に細胞を抜き取ってくれた先生だったんですが、結局、それが失敗だった、結果が出なかったという、その先生です。「まだ来てるのか」というみたいな、それを言われたときにはショックでした。
・実は裁判は起こさなかったんですけれども(医師と)示談したんです(50歳代前半・女性)
ある体験者たちは、医師との付き合い方に、工夫をしていると語っています。医師が話している時は話さないようにしているという人、また本当に聞きたいことはメモに書いて忙しい医師に協力しているという人もいました。
・先生がお話をしているときに話せば怒られるんですよ。患者さんがあれもこれも聞けば本当はダメだから黙っているんです(30歳代後半・女性)
・本当に聞きたいときは書いて、これだけは聞きたいと言わなければ、患者のほうも協力してあげなきゃだめでしょ、忙しいんだから(60歳代前半・女性)
がん体験者たちは、医師に対する様々な要望を語っています。検査や治療、副作用についてもっと説明して欲しかった、メンタル面でも力になって欲しい、もっと患者の話に耳を傾け、専門的な言葉でなくわかるように説明して欲しい、などの語りがありました。がん患者の多さから、医師の負担が大きいのではないかという危惧を抱き、患者を診ず病気だけを診る医療にならないで欲しいという願いを手記に書いている人もいます。
・医師が治療法や副作用について説明し、その病気に対しての情報は伝えてほしい(50歳代後半・女性)
・医者はサービス業の一種だと思うんですよ。メンタル面でも力になってくれると、相乗効果で病気は治ると思うんですよね(50歳代前半・女性)
・患者を診るのでなく、病気を診る(≒ 検査数値を見る)だけの診察にならないよう切に願っている。(手記より)
私が入院したA病院はがん拠点病院であり、医師・スタッフのスキルは高いのだと思う。しかしながら、婦人科病棟について言うなら、日々の新患と腫瘍外来で最低5年は通院する患者、その間に外来と入院を行き来する患者もしばしばで、外来も病棟も限界になっているのではないかと感じる。特に医師には産科の業務もあるので、喜びもある反面、負担も大きいと察する。日々進歩する癌の研究や治療法に対して医師やスタンフが研鎖を積む時間がとれないのではと心配になる。患者を診るのでなく、病気を診る(≒ 検査数値を見る)だけの診察にならないよう切に願っている。
看護師との関係
入院中、がん体験者が医師よりも接する機会が多い看護師に対しては、自分がわがままを言った、優しかった、話を聞いてもらったという語りがありました。ある体験者たちは、看護師の仕事の忙しさを理解し、患者も協力したほうがよいと語っています。
・落ち込んでいたとき1時間ぐらい、看護師さんとじっくり話をしてメンタル面ですごく助かりました(50歳代前半・女性)
・看護師さんも忙しいのよ。なるべく病院には協力して(音声なし)
看護師さんは優しいですよ。
看護師さんも忙しいのよ。そして、画面があるでしょ。この辺に看護師さんがいるでしょ。そうすると、あまりしゃべらないの。先生が話をして、余計なことを言えば、またその人の時間オーバーになるんじゃない? 看護師さんが叱られるんじゃないの? なるべく病院には協力して。
・(看護師さんは)時間の制限とか、体力的にも大変だろうと思います。だから、要望だけでなくて、自分でできることは自分でしよう(40歳代後半・女性)
一方で、看護師とは特に深くかかわらなかった人もいました。中には、看護師から怒られた、もっとこちらの気持ちを考えて欲しいという語りもありました。また外来の受診前に看護師が話を聞いて医師に伝えて欲しいという要望もありました。
・この患者はこういう症状だからとそんなに深くはね(50歳代前半・女性)
・暑くて暑くて、夜も眠れないで、「氷枕ください」って言ったら怒られて(音声なし)
手術の前も暑がりでしたね。入院しているときも、6月で、暑くて暑くて、夜も眠れないで、「氷枕ください」って言ったら怒られて。(笑)
「熱もないのに暑苦しいだけじゃあげられません」って 。
・受診する前に看護師さんが話を聞いて、患者の聞きたいことを医師に伝えて欲しい(50歳代後半・女性)
病院との関係
ここでは、がん体験者が、病院や医療についてどのように感じているか、どんな要望を持っているかについての語りを紹介しています。病院、医療者と良好な関係を保ち、病院スタッフから元気をもらった、病院に助けてもらった、ここに来てよかったという思いを語る人がいる一方、病名が知人に漏洩された経験を語る人もいました。病院の相談窓口について、心のケアをしてくれる雰囲気が感じられなかった、がんについてのパンフレットは相談室ではなく外来の告知の時に渡して欲しいと手記に書いている人もいます。
・(病名)告知もなかったけれども、あのときに助けてもらったのは確かに病院です(30歳代後半・女性)
・本当によくしてくれました。婦人科のスタッフの人たちはものすごく気を遣っていますね(40歳代後半・女性)
・秘密にしていた自分の病名を、病院から外に漏らされた(50歳代後半・女性)
・『患者・家族相談支援室』を訪ねたが心のケアをする雰囲気が感じられなかった。がんについてのパンフレットは外来の告知の場で渡して欲しい。(手記より)
乳癌は主に女性の癌であるが、診祭は外科である。外科病棟にはカウンセラーが設置され、入院患者の相談を受けていると人づてに聞いた。しかし、婦人科病棟にはカウンセラーはいない。病院の1階に、『患者・家族相談支援室』というのがある。私も2度訪ねたが、こちらから声をかけないとデスクから立って来てくれないし、どちらかというとケースワーカー的で、心のケアをする雰囲気が感じられなかった。本当に、ここで心のケアもしてくれるのだろうか?
私が外来で癌の告知をされた時、確かにここ(相談支援室)を(口頭と用紙で)案内されたが、告知後すぐにこの窓口を訪れる人は少ないのではないかと思う。入院中に病棟の友とも話した事だが、告知された直後は頭が真っ白で、しばらくは病気のことを受け入れられないというのが皆の反応なのだ。そこで、啓蒙用のパンフレットは相談室の棚に置いておくのではなく、外来で告知したらその場で渡して欲しいのだ。それをいつ開いて読むかはその人次第だが、それが病気に立ち向かうきっかけにもなるし、最低限必要な情報を得る手段になると思う。情報はどんどん古くなるので、死蔵しないでどんどん使うべきだと思う。