がん患者の体験 / 前立腺がん

早期の前立腺がんでは、特有の症状が現れることは、ほとんどありませんが、がんが大きくなってくると尿道を刺激したり圧迫したりして、尿が近い、出にくい、尿に血が混じるなどの、さまざまな症状が出てくることもあります※1。しかし、尿にかかわる症状があったからといって、必ずしも、その全てが、がんに結びつくわけではなく、多くの場合は、前立腺肥大症などの良性疾患によるものです※1

 

ここでは、前立腺がんと診断される前に経験されていた症状と受診のきっかけ、そして、受診後の成り行きについての語りをご紹介します。今回のインタビューでは、11人中8人の方が、前立腺がんが発見される以前に、何らかの症状を自覚されていました。中でも、尿にかかわる症状について語られていた方が7人いました。症状としては、尿が近い、夜間にトイレに起きる回数が多い、尿が出にくい、出そうとしても勢いよく出ない、そして、尿に血が混じっているなどが挙げられていました。(こちらの体験談は、どれも貴重なものですが、すべての前立腺がんの方にあてはまるとは限りません。)

 

おしっこが近くなったと感じて、すぐに、専門医を受診した方がいる一方で、単に加齢のせいであると思って、そのままにしていた方もいました。

 

昼間だけでなく、夜中のトイレも異常に近かった。町の泌尿器科を受診したら、血液検査のために大きな病院を紹介された(60歳代前半・男性)

 

おしっこが我慢できなくなったが、年のせいだと思って、そのままにしていた。検診でPSA検査の数値が、昨年と比べて上昇したため、病院を紹介された(70歳代前半・男性)(テキストのみ)

 

早期の前立腺がんでは、特徴的な症状が現れることはなく、排尿などの自覚症状があるとしても、その多くは、たまたま同時に存在していた前立腺肥大症などによるものです※1。今回の体験談では、尿にかかわる自覚症状があって医療機関を受診されてから、最終的にがんが発見されるまでに、前立腺肥大症や前立腺炎などの良性疾患の治療を受けていた方がいました。中には、15年間に渡って前立腺肥大症の治療や経過観察を行なう中で、がんが見つかった方もいました。

 

次の方々も、尿にかかわる症状が出て、受診した当初は、病院からもらった前立腺肥大症や炎症の薬を飲んでいました。

 

お酒を飲むとおしっこが近くなるのに、チョロチョロしか出ない。薬を飲んだが症状は改善されず、暫く)放っておいたが友人の話に触発されて再受診した(60歳代前半・男性)

 

血が混じったおしっこが出た。泌尿器科を受診して、炎症の薬を服用したが、血液検査の数値は高いままだった(50歳代前半・男性)(テキストのみ)

 

尿にかかわるものとは別の症状で、泌尿器科を受診したことがきっかけで、PSA検査を受けることになり、がんの発見につながった方もいました。前立腺がんの症状とは、直接、関係があるとは言えませんが、貴重な体験談の1つとしてご紹介します。

 

陰部がかゆくなった。塗り薬をもらおうと泌尿器科を受診した時、たまたま、待合室でPSA検査の情報を見て、検査を受けてみた(50歳代後半・男性)

 

思い当たる症状が全くないのに、がんと診断された方もいました。偶然に見つかった前立腺肥大症の治療をしている間に、定期的に受けていたPSA検査の数値が上昇してきたのがきっかけで、がんが発見された方や、次の方のように、健康診断で要精密検査という結果が出て、医療機関を受診することになった方もいました。

 

自覚症状は全くなかった。健康診断に導入された前立腺のがん検診を受けたら、要精密検査という結果が出た(60歳代後半・男性)

 

【参考資料】

※1. 国立がん研究センターがん対策情報センター編集:がんの冊子 各種がんシリーズ 前立腺がん. 2012年5月 第2版

 

前立腺がんの治療では、副作用として排尿に関する影響が出ることがあります。

手術では、性機能障害のほかに尿失禁が主な副作用としてあげられます。

また、放射線治療では、治療後しばらくして直腸や膀胱に影響が出ることがあります。頻尿や尿意切迫などが起こると言われますが、ほとんどは数ヶ月のうちに解消します。

ここでは、治療によって排尿にどんな影響が出たか、体験者の語りをご紹介します。

〈参照〉

独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター

がんの冊子 各種がんシリーズ 前立腺がん

http://ganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000ul0v-att/153.pdf

 

手術の後、尿の量が減ったり、尿が出にくくなったという方や、排尿の回数が増えたという方がいらっしゃいました。

また、尿漏れが生じ、対処に苦労しているということを複数の方がお話されていました。尿漏れパッドを使ったり、お尻に力を入れて漏れないようにするなど、それぞれの方が工夫しておられました。時間の経過とともに改善したという方もいました。

 

尿が出にくかった時、尿道に長い針金のようなものを入れる処置をした。現在も、若い時より尿が出にくい(70歳代後半・男性)

 

手術から1ヶ月だが、立った瞬間にちびる。おしりに力を入れると大丈夫だが、そればかり気にしていられない(60歳代後半・男性)

 

手術の後、尿漏れパッドが手放せなかった。夜トイレに起きる回数が増えた(70歳代後半・男性)

 

パッドのついた下着などを準備したが、慣れていないから履きたくない。普通の下着で過ごしている。夜のトイレの回数が減った(70歳代後半・男性)

 

インタビューに協力してくださった皆さんは、病気になったことをきっかけに、日々の生活に対する気持ちの持ちようや、人生に対する意識が変化したと感じていました。

ここでは、病気とどのように向き合っているか、体験者の語りをご紹介します。

 

病気をきっかけに、自分に残されている時間が有限だということを意識するようになり、人に対する関わり方が変わったという方がいらっしゃいました。

 

病気になって、時間が限られているので、一生懸命になってちょっと密度が濃くなった気がする。人に対して、何か手助けできないかと思うようになった(50歳代後半・男性) 

 

ある方は、がん以外にも病気をお持ちで、死に対する不安を常に感じているそうです。できるだけポジティブに考えようとしたり、読書や音楽などの趣味の時間を持ったりすることで、気持ちを癒そうとしていらっしゃるとのことでした。

 

がんに加えて他の病気もあり、座して死を待つほかないだろうが、マイナス思考が強くなる。趣味で癒そうと毎日を過ごしている(60歳代後半・男性)

 

治療が終わっても、再発や転移の不安がつきまといます。インタビューに協力してくださった方々は、人と話をして忘れるようにしている、趣味を続けるようにしている、など、それぞれの方法で不安に対処していらっしゃいました。

 

医師から「体質的に2、3年後になる可能性がある」と言われ、他の場所にがんが出るのかなという不安がある(50歳代後半・男性)

 

違和感があるときがあり、少し心配になるが、人と話したりして忘れるようにしている。いつもそればかり気にしていたら大変だと思う(60歳代前半・男性)

 

現在治療中の方は、治療の効果が出るかどうかという不安についてお話されていました。

 

放射線治療の効果があればいいが、なければ何をすればいいかが心配。勘弁してほしいと言いたくなる(60歳代前半・男性)

 

インタビューに協力してくださった方は、なぜがんになったのか、ご自分でさまざまな原因を考えておられました。

家族や親戚にがんを経験した方がいるために、体質や遺伝が原因と考えていた方がいらっしゃいました。一方、ご家族や親戚にがんになった人がいないという方は、「原因が思いあたらない」とお話されていたり、自分ががんになったのは“突然変異”だと話す方もいらっしゃいました。

 

母が胃がん、母の兄弟二人もがんになっている。自分も胃がんや腸がんになる可能性があると昔から思っていたが、前立腺がんとはびっくりした(60歳代後半・男性)

 

畑作業で農薬を使うことが、がんになった原因のひとつではないかと考えている方もいらっしゃいました。

 

素人の勝手な想像だが、畑作業で農薬を使うことが原因じゃないかと思う(50歳代後半・男性)

 

がんの治療にかかる経済的な負担について、体験者のお話をご紹介します。

民間の医療保険や、高額医療保険制度を利用しているという方が複数いらっしゃいました。

民間の医療保険に入っていた方の中には、昔勧められてたまたま入ったという方もいれば、家族や親戚にがんを体験した方がいたため、自分も逃れられないと考えて入ったという方がいました。医療保険で入院や手術の費用が出て助かったという方もいれば、昔入った時からプランを変えていなかったために一時金が出るのみで十分でなかったという方もいました。

高額医療保険制度については、自己負担の軽減につながった方がいる一方で、一ヶ月の医療費が基準額を満たさず、高額医療保険制度の対象とならなくて負担が大きかったという方もいました。

 

たまたま父親が自分のためにがん保険に入っていたのと、高額医療保険制度を使って、治療費の心配は特別なかった(50歳代後半・男性)

 

検査や治療で、3ヶ月で27〜28万円かかった。一ヶ月で8万円以上にならなくて高額医療保険制度が使えない月もあった。昔入ったがん保険から一時金が出た(60歳代前半・男性)

 

手術の後、県外の病院で活性化免疫療法(※)を受けているという方や、健康食品を活用しているという方は、治療が自由診療であったり、健康食品は高額だが保険が効かないということで、経済的な負担が大きいとお話されていました。

※ 免疫細胞療法のこと。試験的医療であり効果と副作用についての評価は定まっていません。

〈参照〉

独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター

がん情報サービス 免疫療法

http://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy.html 

 

手術の費用は、高額医療保険制度で戻ってきたので大丈夫だったが、活性化免疫療法は自由診療のため、交通費も含めて大きい出費だった(60歳代後半・男性)

 

アガリクスなど健康食品は高額だが保険が効かない。検査やホルモン療法は保険が効くが、保険に入っていなかったらやれないと思う(60歳代前半・男性)

 

経済的な負担は二の次で、いいと思うことはやるという考えの方もいらっしゃいました。

 

高額医療保険制度などで、今はそんなにかからないと感じている。いいと思ったことは経済的なことは二の次でやっている(50歳代後半・男性)

 

前立腺がんの治療中や治療後の生活の中で、複数の方が、食事や生活習慣などに気をつけて生活するようになったと話しておられます。

食事に関しては、乳製品を食べないようにしている、お酒の量を減らしている、家族に塩分を減らすように言われ気をつけている、といったお話がありました。

生活習慣に関しては、以前より休みをとるように心掛けているという方や、手術後に歩くようにして体力をつけたという方がいらっしゃいました。

病気の前後で、特に日常生活に変わりはないという方もいらっしゃいました。

 

乳製品があまりよくないと聞いて、食べなくなった(50歳代後半・男性)

 

飲み会になるべく参加せず、野菜中心の食事にしている(60歳代前半・男性)

 

前と同じようではいけないと思う。お酒の量を減らしたり、休みを増やしたりしている(50歳代後半・男性)

 

食事に気をつけている。今まで以上に妻が口やかましくなったが、以前のように一喝しない(60歳代後半・男性)

 

日常生活は、手術する前と全く同じ(60歳代後半・男性)

 

手術してから1週間、2時間くらい歩いた。体力が回復し、日常生活に戻るのに支障はなかった(60歳代後半・男性)

 

診断、治療、入院、通院などを通して、体験者の方はさまざまな問題意識や要望を感じていらっしゃいました。

医療スタッフや病院への要望と、一般の方へのメッセージを、ここでご紹介します。

 

病院や医療のシステムとして、泌尿器科の専任の看護師がいるとよいという意見や、検診を受けられるがんの種類が増えるといい、といった意見がありました。

病院には病気に関するさまざまなパンフレットがありますが、前立腺がんのパンフレットに載っている基準値について、個人差を考慮する方がよいというお話もありました。

 

今までよりも多くの種類のがんの検診をスムーズに受けられるようなシステムがあるとよい(50歳代後半・男性)

 

前立腺がんの体験を通して、検査や検診を受けた方がいいと改めて感じたという方がいらっしゃいました。

より多くの人が検査や検診を受けやすくなるように、情報のPRを行う、相談窓口を設けるという提案がありました。

また、検査の基準値に関して、個人差を考慮して検討する必要があるのではないか、という意見がありました。

 

検査はやった方がいいと今回つくづく思った(60歳代後半・男性)

 

前立腺がんの検診は採血だけでできるということを大々的にPRする必要がある。局部の検査を受けると思ってやらない人がいると思う(60歳代後半・男性)

 

前立腺がんの疑いがあった時に、早めに健康診断を受けたり家庭医に相談できる窓口があるとよい(70歳代後半・男性)

 

前立腺がんになったことで出会う病院の先生や看護師さんたちと、どのような関係をつくり、保っていくのかは、多くの患者さんにとって、とてもたいせつな問題です。インタビューにこたえてくださった方々の体験や思いをここでご紹介したいと思います。

 

信頼できる先生にであい、良い関係をたもっていることを喜んでいる方々がいます。

 

主治医の先生は、非常に信頼できました(60歳代後半・男性)

 

先生を信用してるんだよ、ものすごくいい関係(60歳代前半・男性) 

 

 

一方、定期的にみてもらっていた先生や、以前みてもらった先生に対して不信感をいだかれた方々もいます。

 

「そういえばPSAの数値が高いんだよね」と、あとになって言われても(50歳代後半・男性)(PSAについては発見カテゴリーをご参照ください)

 

前のお医者さんに「死ぬまでがんになりませんよ」と言われたのに(70歳代後半・男性)

 

 

ご自身の体験から、医者に対して、もっとこうしたら良いのではないかというご提案もいくつかいただきました。治療方法を決めるときに、がん患者さんはしろうとなので、選べといわれても選べない悩みがある、また、75歳以上か未満かで、治療方法をかんたんに分けて良いのか、といったご意見を紹介します。

 

先生は、治療の方法を選びなさいというより、ある程度、助言してくれた方がいいんじゃないか(70歳代後半・男性)

 

「75歳以上の人にはすすめないけども、74歳ですから手術をすすめる」と言われても、個人的な体力は違うでしょう(70歳代前半・男性)(テキストのみ)

 

前立腺がんの告知を受けたとき、そして入院したとき、治療を続けている今も、どのようなご家族との関係をもたれているのでしょうか。それは皆さんの状況によって、ずいぶんと違ったものでした。

 

家族がとても気を遣っているとこたえた方も、反対に普段のとおりにふるまっているとこたえた方もいます。また、家族みんなで協力したと話してくれた方もいました。

 

母も姉も体調が良くないのに、私に負担をかけないようにしているんです(50歳代後半・男性)

 

妻も子もべつに驚かず、生活もそんなに変わらなかった(60歳代後半・男性)

 

暗くなってもしようがないから明るく治療に専念しようと、そうやって家族とやってきたんです(50歳代前半・男性)(テキストのみ)

 

きっと家族は私に意識をさせない気遣いをしているんだなと思っています(60歳代後半・男性)

 

ご本人自身がご家族の看病をしていたので、うまくタイミングを合わせて同じ時期に入院した方、財産分与などについて遺言状のようなものを書いている方、など、より具体的にしたことやしていることをお話くださる方もいました。

 

自分でおやじの面倒も見ているので、私、手術するとなると、おやじが大変になるのさ(60歳代前半・男性)

 

一応、遺言みたいなのを書いて、毎年書き換えてるけどね、すっきりするよ(60歳代前半・男性)

 

ご自身の病気のことは、あまり知人や友人には話していないという方が複数みられました。でもその理由はさまざまに異なっていました。

 

入院した時におみまいに来てもらうのが悪いからという方や、お酒を飲めないことを伝えたら飲み会に誘ってくれなくなったことが、つまはじきになったようで寂しいという方がいました。また、治療法が決まっていないし、心配をかけてしまうからという方もいました。

 

がんそのものはいいんだけども、入院したとなるとお見舞いがあるでしょう、それが悪いから教えないの(60歳代後半・男性)

 

飲めないからって言ったら、ああせばって気を遣ってくれて、誘ってくれないんですよ(60歳代前半・男性)

 

まだ何をどういうふうにするかも決まっていないのに、友達にも近所にもしられたくないしね(50歳代後半・男性)

 

一方で、知られても別にかまわないというお考えの方もいました。

 

特別、おれはがんだとしゃべって歩くわけでもないんですけど、別に知られてどうということでもないなと(60歳代後半・男性)

 

前立腺がんの治療の副作用として、男性機能に影響が出ることがあります。

手術による治療を行った場合、性機能障害は主な副作用の一つです。性機能障害とは、勃起障害が起こったり、射精することができなくなったりすることです。病態によっては神経を温存することも可能で、治療を選択する際に医師から説明がなされます。

また、内分泌療法や放射線治療を行った場合にも、勃起障害が起こることがあります。

ここでは、前立腺がんの治療による男性機能への影響について、体験者のお話をご紹介します。

〈参照〉

独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター

各種がんの解説 前立腺がん

http://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/index.html

がんの冊子 各種がんシリーズ 前立腺がん

http://ganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000ul0v-att/153.pdf

 

インタビューでは、複数の方が、手術で前立腺を摘出し、性機能障害が生じたことをお話されていました。 

 

前立腺をとって、夜の方は完全にだめになった(60歳代後半・男性)

 

内分泌療法や放射線治療によって、性機能に影響があったというお話もありました。

 

睾丸(こうがん)が凝縮されるような感じがはっきり分かる(50歳代後半・男性)

 

体験者の皆さんは、治療を選択する際に、医師から性機能障害について説明を受けています。性機能を残すことに強く固執することはない、という思いが語られた一方で、なくなることは寂しいと感じていたり、もし残せるものなら残したいという思いを語る方もいました。どのように感じるかは、ご本人の年齢や、子どもがいるかどうかということも影響するようです。

 

自分のように70歳代であれば、性機能がだめになってもいいけど、使う、使わないは別として、やっぱり寂しい(60歳代前半・男性)

 

性機能は、男性としての矜持として保っていたいという気はあるが、固執するつもりはない(60歳代後半・男性)

 

性機能を温存するかどうかについて医師から説明があった際に、妻や子どもが同席していると、ご本人は率直に話しづらくなることがあるようです。ある方は、性機能を残すかどうかの話は、子どもの前ではしにくかったという思いを話していました。

 

性機能に関して、治療の前後でそう変わりはないという方もいらっしゃいました。

 

年齢的なものもあるだろうが、性機能に関して、そう変わりはない。医師から効く薬を2、3回もらったことがある(70歳代後半・男性)

 

前立腺がんの診断、再発・転移の指標のひとつが前立腺特異抗原(PSAピーエスエー)の値です。

〈参照〉

発見

症状と受診のきっかけ

診断のための検査

 

PSA値は前立腺がんの発見、診断の時だけでなく、治療後の効果や経過をみていくときにも用いられます。前立腺がんの再発・転移とは、治療後に下がったPSA値が上がったり、リンパ節や他の臓器に病変が新しくみつかることを言います。また、ホルモン療法の後、一旦下がったPSA値がまた上がることを「再燃」と呼びます。治療後のPSAの基準値(いくつ以上なら再発の疑いがあるかの値)は、受けた治療によって違うので単純に数値だけでは判断できません。

 

手術療法のみを受けた場合一般的にPSA値が0.2ng/mlを超えると、再発の疑いがあるとされていますが、このほかにも手術療法の後、どのくらいの期間でPSA値が上昇しているかなど、考慮しなければならない要素があります。また放射線治療のみを受けたあとでは1.0ng/mlを超えると再発が疑われます。ただ、いくつかの治療を併用している場合にはこの基準はあてはまりません。

ここでは、PSA値の経過観察やその後の対応についての語りを紹介していますが、上記のようにその方の受けた治療法によってもその後のPSA値の基準は異なっています。またPSA値が上がった後の対応もさまざまです。

 

手術後PSA値が上がって再手術を受け、さらにホルモン療法を併用している方もいましたし、放射線治療をした方もいました。

手術後PSA値が0.4か0.5に下がったが1年後に2.0になり睾丸切除の手術。一時的には下がったが、再度上昇でホルモン剤を併用したがまた上がってきている(60歳代前半・男性)

 

手術後PSA値が1.8になりMRIを撮ると手術ではがんが取り切れていないことがわかった。それで放射線をやろうと(60歳代前半・男性)

 

ホルモン療法を受けながらPSA値を経過観察し、上がれば薬を変えることによって対応している方もいます。

PSA値はだいたい6.4できているが、上がれば薬(ホルモン剤)を変えている。今年21.4になったが薬を変えてまた下がった(60歳代前半・男性)

 

一方で手術の後PSA値が下がったまま安定し、定期的に血液検査のため病院に行く以外は特に治療の必要のない方たちもいました。

手術してから2年目だがPSA値はずっと0で、今は薬も飲んでいない。医師は5年間は気をつけるよう言われていて4ヶ月に1回検査に通っている(70歳代後半・男性)

 

前立腺がんの検査には、PSA検査、直腸診、超音波検査、前立腺生検などがあります。生検の結果、がんであることが確定すると、転移の有無や広がり具合などを調べるために、CT検査、MRI検査や骨シンチグラフィーなどが行なわれます※1

 

ここでは、前立腺がんと診断されるまでに受けた検査の中で、PSA検査と前立腺生検についての体験談を中心にご紹介します。(こちらの体験談は、どれも貴重なものですが、すべての前立腺がんの方にあてはまるとは限りません。)

 

前立腺がんを発見するためのきっかけとなっている検査の1つに、血清PSA(前立腺特異抗原)測定があり、がんの可能性を探るスクリーニング(ふるいわけ)の役割を果たしています※2。年齢や前立腺の状態にもよりますが、一般的に、このPSAの値が4ng/mlを超えると、前立腺がんの心配があるとされています※2。しかし、前立腺肥大症や前立腺炎などでも、高値になることがあるため、前立腺の組織の一部を採って顕微鏡で調べる前立腺生検を行なって確定診断をします※3。最近では、超音波を発する器具を肛門から挿入して、画像上で位置を確認しながら、6~10ヶ所以上から組織を採取する検査方法(系統的生検)が多く行なわれています※1

前立腺がんの検査についての詳しい説明は、全国のがん拠点病院の相談支援センターなどで配布されているがんの冊子※1等をご覧ください。また、PSAについての語りは、治療-PSA値の推移と再発・転移でもご紹介しております。

 

検診で受けたPSA検査の結果が、前年度から1ポイント上がって、基準値といわれている4ng/mlを超えたため、紹介された病院で生検を行なったところ、がんが見つかった方がいました。

PSA検査の数値が上がってきたので、生検を受けた。12か所から採った細胞の1つにがんが見つかった(70歳代前半・男性)(テキストのみ)

 

前立腺生検は、比較的安全な検査といわれていますが、まれに感染や直腸出血、血尿などが出現することもあります※3, ※4。今回の体験談では、11人中1人の方から、生検後におしっこに血が混じったというお話を伺いました。

エコーの器具を入れて生検を行なった。検査の後、おしっこと一緒に血液が出たが、医師からはだんだん薄くなって治るといわれた(70歳代後半・男性)

 

前立腺生検でがん細胞が検出されない場合でも、がんが完全に否定されるわけではないので、専門医の定期的な診察が必要です※3。次の方は、1回目の生検でがんが否定されてから、5年後に、がんが発見されたそうです。

PSAの値が上昇した1回目の生検では、がんは見つからず、2回目の生検で、がんが見つかった(70歳代後半・男性)

 

生検で前立腺がんであることが確定すると、多くの場合、転移や臓器への広がり具合などに関して、更に正確な診断をするために、CT、MRI、骨シンチグラフィーなどの画像検査を行ないます※5。次の方は、前立腺肥大症の治療中にPSAの値がグレーゾーン(注1)に上昇したため、生検を受けたら、がんがみつかり、その後に画像検査を受けられていました。

CTや骨シンチの検査で転移はないことがわかった(50歳代後半・男性)

(注1) 血清PSAの値が4~10ng/mlの領域は、グレーゾーンと呼ばれており、陽性率は一般に25~30%といわれています※6

 

中には、直腸診(触診)を行なっただけで、いきなり、がんであることを告げられ、生検は、入院後に、手術前の検査と一緒に行なっていた方もいました。

触診をしただけで、がんであることを告げられた(60歳代前半・男性)

 

【参考資料】

※1. 国立がん研究センターがん対策情報センター編集:がんの冊子 各種がんシリーズ 前立腺がん. 2012年5月 第2版

※2. 武藤智(監修):前立腺がん、どんな検査でどう診断するか? がんサポート. 2012;110

※3. 日本泌尿器科学会編:前立腺癌診療ガイドライン(2012年版)

※4. 日本泌尿器科学会編:前立腺がん検診ガイドライン(2010年増補版)

※5. 高山幸久,西江昭弘ほか:前立腺癌の画像診断 -CT,MRI,骨シンチグラフィ-.臨牀と研究. 2011;88(11)

※6. 川村幸治,坂本信一ほか:前立腺がんの腫瘍マーカー.臨牀と研究. 2011;88(11)

 

ここでは、前立腺がんであることを知った時の状況と、その時の体験者の方々の気持ちをご紹介します。

 

がんと告げられることは、誰にとっても衝撃的な出来事です。今回の体験談でも、「ショックだった」、「頭が真っ白になった」、「びっくりした」など、医師に、がんであることを伝えられた時の動揺した様子が、多くの語りから伺えました。

 

単刀直入に伝えられると思っていなかったので、瞬間的に頭が真っ白になった(60歳代後半・男性)

 

自分ががんになるとは考えてもみなかったから、意外で、びっくりした(60歳代前半・男性)

 

動揺まではいかなくても、平静ではいられなかった思いと共に、医師との会話の中に出てきた後遺症のことを心配されていた方もいました。

いよいよ来たかと思った。治る、治らないよりも後遺症の方が心配だった(60歳代後半・男性)

 

がんであることを医師から告げられて、動揺された方々がいらっしゃる一方で、驚かなかったという方もいました。

取ってしまえばいいと思ったから、びっくりしなかった(60歳代後半・男性)

 

ここではがん体験者が、治療法をどのように決めたのか語っています。

手術治療を選んだ方たちは、長くかかる他の治療法より手術でがんを取ってしまったほうがいいという思いを語っています。また、この他に家族のすすめで手術を決めたという方もいました。

 

病院でがんのパンフレットをもらってきて、手術をしようと決めた(70歳代後半・男性)

 

がんを取れるなら取ってしまったほうがいいと手術を選んだ(60歳代後半・男性)

 

放射線でがんが残るより手術で取った方がいいと思い手術した(50歳代前半・男性)(テキストのみ)

 

一方で、手術の傷の痛みや入院することなどデメリットを考え、ホルモン療法を選んだ方たちもいます。また医師のすすめでホルモン治療を長くしていたが担当医が替わり手術をした方もいました。

 

別のがんを手術した傷が今も痛むことと、家にいなければならない事情があり、放射線治療を選んだ(50歳代後半・男性)

 

定年後でこれから働くわけでもないから、手術はせずホルモン剤の注射でカバーしようと医師と話がついた(70歳代後半・男性)

 

医師のすすめで3年間薬を飲んでいたがその後担当医が替わり即手術した(60歳代前半・男性)

 

中には、様々な治療法の中から選択することの難しさを語った方もいます。

治療について決めるよう医師から言われても、検査結果から自分で判断するのは難しい(50歳代後半・男性)

 

ここでは医師や病院をどう選んだかについての語りを紹介します。

自分で病院の情報を集め、そこでできる治療法や症例数を調べて決めた方、家の近くだから選び医師への信頼からその後も通ったという方がいました。また、この他にもかかりつけ医の推薦で病院を選んだ方もいます。

 

各病院でできる治療法や患者数を調べて選んだ(70歳代前半・男性)(テキストのみ)

 

当時の住まいの近くだったのでその病院を選び、医師を信用していたので引越し後も通った(70歳代後半・男性)

 

セカンド・オピニオンとは、患者が診断や治療法について主治医以外の医師に意見を聞くことです。専門のセカンド・オピニオン外来を設けている病院もあり、受診する場合はまず主治医から今までの検査・診断の結果の資料を提供してもらい、それを持って別の医師の意見を聞くことになります。しかし一般的には、それだけでなく、単に別の病院を受診することも広くセカンド・オピニオンと捉えられています。

今回インタビューした体験者の中には、主治医には言わずに別の病院を受診した方もいましたし、主治医に話して他の病院を受診した方もいました。また、検査結果のコピーなどにお金がかかっても、セカンド・オピニオン外来のほうが結果が出るまでの時間が短縮されると語る方もいました。

 

知人から「前立腺の権威」と聞いた東京の大学病院に行ったが診断は同じだった(60歳代前半・男性)

 

別の病院に行こうとしたら病院スタッフが難色を示した感じがした。セカンド・オピニオンへの対応は医師やその機関によって違いがあると痛感した(50歳代後半・男性)

 

手術療法では、前立腺、精嚢の摘出が行われます。術後の副作用として尿失禁と性機能障害があります。

〈参照〉

生活

男性機能への影響

排尿への影響

 

ここでは、手術の体験を紹介しています。体験者は、3時間あまりの手術の間全身麻酔で眠っており、痛みは全く無かったと語っています。ある方は心臓に持病があり、目が覚めたあと本当に3時間半手術したのか麻酔医に確かめたという体験を話しています。

 

3時間の手術だったが全身麻酔で痛みもなく、あっという間だった(60歳代後半・男性)

 

心臓の持病があり心配だったので目が覚めたとき麻酔科の先生に「本当に3時間半やったのでしょうか」と聞いた(60歳代後半・男性)

 

3時間の手術だと聞き医師に全身麻酔でと頼んだ。術後も痛みは何もなかった(60歳代前半・男性)

 

放射線療法は、放射線を使ってがん細胞の遺伝子を破壊する方法です。これにより、がんが細胞分裂できなくなります。からだの外から放射線をあてる外照射法と、放射性物質のカプセルを前立腺に埋め込む密封小線源療法(組織内照射法)があります。

今回のインタビュー協力者は、外照射法を受けています。放射線療法とホルモン治療を組み合わせて受けている方、手術のあとさらにがんが見つかり放射線治療を受けた方がいました。また放射線治療をしている間は体型が変わらないよう医師から言われているという語りもありました。副作用として体のだるさや肛門のただれをあげ、禁酒のつらさを語った方もいます。

 

放射線療法とホルモン療法を併用している(50歳代後半・男性)

 

放射線治療の35日間は体重や体型を変えないよう医師から言われている(50歳代後半・男性)

 

2回の手術治療をしたが、またがんが見つかり放射線治療をした(60歳代前半・男性)

 

体がだるい、肛門のただれ、おしっこが急にしたくなるなどの副作用があった。一番苦しかったのは酒が飲めなかったこと(60歳代前半・男性)

 

前立腺がんは男性ホルモンの影響で進行する特徴があり、男性ホルモンを押さえるための治療を「ホルモン療法」(内分泌療法)といいます。ホルモン療法には精巣を手術で取る方法と、注射や飲み薬による方法があります。ホルモン療法でよくあらわれる副作用として、ホットフラッシュ(急な発汗、のぼせ、ほてり)や性機能障害があげられます。

ここでは、注射や飲み薬による副作用のつらさについての語りを紹介しています。女性の更年期のようなホットフラッシュを経験した方、湿疹で皮膚がかゆくなった方、体のだるさを感じた方、不眠になった方など、それぞれの方がさまざまな副作用を経験しています。

 

治療を始めてからは1日に2~3回体が熱くなり顔が真っ赤になった(60歳代前半・男性)

 

ホルモンの注射をして半月ぐらいすると脇の下や太ももに湿疹のようなものができてかゆくてたまらない(70歳代後半・男性)

 

汗が出るし、体はだるいし、治療を始めてからは仕事を休んでいる(50歳代前半・男性)(テキストのみ)

 

副作用で眠れなくなり、薬を2〜3回変えた(60歳代前半・男性)

 

現代の医療では安全性や効果がはっきりしていない民間療法、サプリメント、試験的医療などを総称し「補完代替療法」と呼びます。今回インタビューした方の中には、医療機関による治療に加え、サプリメントを飲む、温泉に行くなどの「補完代替療法」をご自身でやっていると語る方もいました。また青森県外で試験的医療を受けた方もいました。

 

クロレラなどのサプリメントを飲み、効果があったと感じる方もいますし、効果があるかどうか分からないと感じている方もいます。また、数値を下げるため飲みたい気持ちと、要らないという気持ちの間で揺れている思いを語った方もいます。

本を見て、クロレラ、アガリクス、を飲んだらPSA値がガクンと下がった。高額なフコイダンは3回ぐらい飲んでやめた(60歳代前半・男性)

 

効いているのか効いていないかわからないがフコイダンと米ぬかを発酵させたサプリメントを飲んでいる(60歳代後半・男性)

 

できるだけ数値を下げたいので医師のすすめがあればサプリメントを購入したい気持ちはある。しかし逆に「何も要らない」とい思うこともある(60歳代後半・男性)

 

一方で、商業的に宣伝で効能をうたうサプリメントは信じないという方もいました。

宣伝でいろいろな効能が言われているものもあるがあまり信じない(50歳代後半・男性)

 

他にもがんに効くという温泉に湯治に行っている方や、試験的医療の免疫療法のため東京の病院へ行った方がいます。

がんに効くという温泉に行くと何年も闘病している人が来ている。自分も苦しい自覚症状がないのが効いている証かなと思っている(60歳代後半・男性)

 

自分の血液を採り、赤血球を培養して戻す免疫療法を10回やった(60歳代後半・男性)

 

今回インタビューに答えてくださった方々の中では、ほかの患者さんとあまりお付きあいがない、話したことがないという方が多くみうけられましたが、同じがんの患者さん同士が、自分の体験を語りあったり、気持ちを共有したりすることは、よくあることのようです。

 

初めて他の患者さんとがんについて話をした時のことを語ってくれた方がいました。それまでは、自分の治療のことを話すこともなかったし、話す気もなかったそうです。

 

病院で知人とばったり会って、初めて他人とがんのことについて話をした(70歳代後半・男性)

 

大部屋で同じ患者さん同士が、冗談を言いあいながら情報を交換していたときのようすをお話してくれた人もいました。

 

みんな大体同じ、「がん連盟だな」って笑いながら、私が情報源になったわけです(60歳代前半・男性)

 

その一方、複数の方が、大部屋でもまったく会話がなかったと語ってくださいました。こちらから挨拶をしても返事がなかったと話してくれた方は、泌尿器科の患者さん特有のものかと感じているようです。また、いろいろな病気の人が入っていた大部屋では、主治医の先生と看護師さん以外の人とは、病気の話をまったくしなかったばかりか、みんなそれぞれに、ずっとカーテンを閉め切ったままだったことを教えてくださった方もいました。

 

挨拶しても返事もないし、お互いに会話がないんです、「ええっ?」と思ったね(60歳代後半・男性)